東京高等裁判所 昭和37年(行ナ)144号 判決 1963年6月06日
原告 荒川鹿次郎 外一名
被告 菊地五男利
主文
本訴を却下する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
事実及び理由
原告等は「特許庁が昭和三四年抗告審判第七九五号事件につき昭和三七年七月二〇日にした審決を取消す」との判決を求めて本訴を提起し、その請求原因とするところは、『原告等は登録第四二九、四三三号実用新案の共同権利者であるが、昭和三一年七月二八日被告を相手方として特許庁に対し、被告製造販売のコンクリートブロツクが右登録実用新案の権利範囲に属する旨の権利範囲確認審判を請求し(昭和三一年審判第三九一号)、昭和三四年二月一七日請求通りの審決を得たが、右審決に対しては被告から抗告審判の請求があり(昭和三四年抗告審判第七九五号)、特許庁は右抗告審判事件につき昭和三七年七月二〇日「原審決を破棄する。(イ)号図面及びその説明書に示す連鎖型コンクリートブロツクは登録第四二九、四三三号実用新案の権利範囲に属しない」との審決をした。しかし右審決は違法であるからその取消を求める』というのである。
しかし職権によつて調査するのに、本件審判事件の特許庁関係記録によれば、右抗告審判の審決書の謄本は昭和三七年八月八日に原告荒川鹿次郎に送達せられていることが認められるところであるのに、本訴が提起せられたのは同年九月八日であること本件記録によつて明らかであるから、本訴はただ一日だけではあるが、旧実用新案法(大正一〇年法律第九七号)第二六条によつて準用せられる旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第一二八条の二第二項所定の三〇日の出訴期間を徒過した不適法な訴といわざるを得ない。尤も特許庁関係記録によれば、右抗告審判審決書の謄本が送達せられたのは原告荒川鹿次郎に対してだけであつて、原告近藤泰夫に対しては未だにその送達がせられていない事実が認められるところであるが、旧実用新案法第二六条によつて準用せられる旧特許法第二一条第一項の規定には、実用新案の共同権利者は特許庁に対し各人互に代表するものと定められており、右規定は審判請求の取下等の不利益行為には、ことの性質上その適用がないものと解すべきであるが、本件のような審決書謄本受領の行為は、この受領の時から出訴期間が進行を始めるものではあるが、出訴期間徒過による不利益はその徒過を原因とするものであつて受領を原因とするものではなく、この意味でも右受領行為は前記の請求取下等の不利益行為とはこれを同視するを得ないものと解せられるところである(現行実用新案法第五五条第二項によつて準用せられる現行特許法第一四条参照)から、本件審決書の謄本は原告等の一人である荒川鹿次郎に送達せられることによつて、原告等両名に対してその送達の効力を生じたものと解すべきである。従つて本訴は前記審決書の謄本が原告荒川に送達せられた日から起算して三〇日の不変期間内にこれを提起するを要したものと解せざるを得ない。
原告等は、本件抗告審判の審決はその審決内容において原告等に不利益なものであるから、その謄本の送達は原告等各自にするを要するという。しかし審決謄本の送達をもつて不利益行為であるかどうかを決するには、その送達行為自体の性質を検討してこれを判断すれば足ることであつて、審決内容の如何によつてその結論を異にすべきものとは到底考えられない。
以上の通りであるから、本訴は出訴期間を徒過し不適法な訴であつて、その欠缺は補正することができないものである。よつて民事訴訟法第二〇二条を適用してこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき同法第八九条、第九三条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 原増司 山下朝一 多田貞治)